町家物語

シアター上映があるんだよ!


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  9階展示室「なにわ町家の歳時記」にある風呂屋では、江戸時代の暮らしがよくわかるシアター(ガイダンス映画)上映を行っています。
  平日は毎時30分〜、土日祝は毎時00分〜と30分〜の上映です。
5月〜8月末までの「夏祭りの飾り」のしつらいの時には「夏祭り」の内容を上映します。
9月〜4月末までの「商家の賑わい」のしつらいの時には、「薮入り」の内容を上映します。
 シアターのシナリオをご紹介いたします。
4月中旬〜8月末 夏祭り
9月〜4月中旬 薮入り


 
・ 『風呂屋シアター』祭り 実施中

・
おしげ 
長屋に住む大工の女房(35歳)


・ おたか 
ぼて振りの八百屋の女房(28歳)


・ 松太夫 
浄瑠璃の師匠(53歳)
・ 千太郎 
松太夫の孫(6歳)


天神祭りの本宮の日。  


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「長屋の井戸端」
 井戸端で、おしげと、おたかが、風呂へ行く支度で話している。
・おしげ 「子どもたちの帰り遅いなあ。」
・おたか 「あー なんぼ待ったかてあかんかあ。」
・おしげ 「お祭りじゃさかいなあ。」
・おたか 「せっかく風呂屋へつれていってやろうおもうたに。ほなら、行こ。」
 と、二人歩き出す。

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「松太夫の家・表」
「浄瑠璃教授」の看板が、掛かっている。 おしげ、おたか、通りかかり、
・おたか 「太夫さんも、お祭りに行きはったんじゃろか、えらい静かじゃ。」
・おしげ 「何じゃ、おたかさん、おまえ知らいでか。」
・おたか 「はあ…?」
・おしげ 「太夫さんとこへ江戸からお孫さんが来はるのじゃ。」
・おたか 「江戸から…」 
・おしげ 「そうじゃ、まだ六つのお子がお祖父さん頼って、はるばる東海道のぼって来るのじゃわいな。」
・おたか 「いたいけなや。それ又、何でじゃ。」

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・おしげ 「あー 話せば長いが、あの太夫さんは、もとを正せば堺の油屋で有徳のお人、米の相場で家財を傾け、今はこの長屋で独り侘び住まいじゃが、一人娘は、江戸の日本橋音羽町の小間物屋へ嫁に行き、跡取りのお子も一人設けて、何不自由なく暮らしてじゃわいな。」

・おたか 「はあ。そこまではわしも誰ぞに聞いてじゃ。」
・おしげ 「ここからがえらいことじゃが、今年の春先、娘さんは、子供をおんばさんに預けて、ご亭主の小間物屋五兵衛さんと連れ立って、お舅様方の墓参りかたがた長崎へ商いに出かけなさったが、そのまま二人共行方知れずじゃ。 」」
・おたか 「まあ、むごいことじゃ。」
・おしげ 「長門の瀬戸で船諸共渦にのまれたか、それともどこぞの山中で山賊にでも出会うたか、文の便りもないままに、奉公人だけでは半季の買いがかりの算用がすまず、お店は人手に渡り、残されたお子はたちまち親も家もないお子になってしもうてじゃ。それでもおんばさんは、裏長屋の侘び住まいして、仕立て物なぞ細々とそのお子を大事にお二人の帰りを待ち侘びていたそうじゃが、待てど暮らせどお帰りはなく、そのうち無理がたたって体を壊し、とうとう先月どっと病の床じゃ。」

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〇風呂屋・表  おしげ、おたか、やって来る。  おたか、足を止め、袂で涙を拭い、
・おたか 「いっこうつらい話じゃ。それでそのお子はどうしたんじゃしら。」
・おしげ 「死んだご亭主の講の仲間が、京へ上るついでがあって、伏見まで連れてきてくれてはるそうじゃ。それじゃてて太夫さんは、ゆんべの夜船で迎えに行きなさったのじゃ。あー もうじき八軒屋へ着くころじゃろう。」
 おたか、突然踵を返して長屋の方に走り出す。
・おしげ 「(驚いて)おたかさん、どないしたんじゃ。」
 おたか、走りながら振り返り、
・おたか 「早よいんで、そのお子に鱧の寿司でも作ってやろうと思うてじゃ。」
・おしげ 「お風呂は…」
・おたか 「後じゃ、後じゃ。」

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 〇木戸口  浄瑠璃の師匠の松太夫(53)が、孫の千太郎(6)の手を引いて木戸へ入って来る。  通りはお祭りの人出で賑やかで、店みせの飾りやちょうちんが華やかである。  松太夫、木戸口で足を止め、
・松太夫 「さあさあ、千太郎。長旅でさぞや疲れたことじゃろが、やっと着いたわいな。ここが祖父の住む町じゃ。ちょうどお祭りで賑やかな事じゃ。どうじゃ、浪速の町は、江戸と違うて屋根の高さが揃うてて見事じゃろうが。」
・千太郎 「お江戸の町だって、見事だい。」
・松太夫 「うんうん、それはそうじゃろう。じゃが、ぼんはもう江戸の子じゃのうて、これからは浪速の子じゃさかいな。」
・千太郎 「それだっても、おいら江戸っ子でえ。」
・松太夫 「言葉つきも早直していかんとな。」

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〇同・建具屋・表  掃き清められた店の間に金屏風をめぐらせ、木魚で出来た造り物が飾られている。
・松太夫 「ほれ、お店に毛氈敷いて造りもの飾っていなさる。ようでけておりますじゃろ。」

 千太郎、足を止め、面白そうに見入る。
・千太郎 「お狸さんだね。」
・松太夫 「滅相もない、布袋様じゃ。このお店はみんな木魚で作ってなさる。お店お店で工夫して、どれも商売繁盛、家内安全を願うてじゃ。さあ、今夜は船渡御、お神輿が船で大川をお渡りになる。豪気なものじゃ。ぼんも一度拝んだら忘れられへんようになるわいな。」

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 〇同・小間物屋・表  店の間に、商品の黄楊の櫛や鼈甲のかんざし、かもじやびんはり等で作られた鶏の造り物が飾られている。  松太夫、千太郎、やって来て、足を止める。
・松太夫 「どうじゃ、大した物じゃろ。今にも鬨(とき)を上げそうじゃ。ここの小間物屋さんは、しっかり商いしておいでじゃ。お前も早う大きゅうなっておとっさんのように…ヲット、これは祖父が誤った。口すべらせて思い出させては、やくたいじゃ。ささ、こちらのお店は人形屋さんじゃ。」
・松太夫 「このお店とお隣の本屋さんには、ぼんと同じ年頃の子達がいててじゃさかい、仲良うしてもらうことじゃな。親御さんは、みな祖父の浄瑠璃のお弟子じゃさかい、気楽に遊んでもろたらええ。」
・千太郎 「うん、仲良くすらあ。」

 と、屋内を覗くが子供達の姿はない。


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〇同・唐物屋・表  店には、嫁入り道具で作られた大きな唐獅子が飾られている。  やって来る松太夫と千太郎、店先に立ち止まり、
・松太夫 「立派なお獅子じゃなあ。顔は箪笥、鼻が手箱の蓋、歯はお琴の爪の箱、体は夜着布団で足は枕。皆嫁入りの支度ばっかりで作ってじゃ。」
・千太郎 「目ン玉ァ、鏡だョ。」
・松太夫 「ああ、これ、触るでない。手え出したらあかん。」

 と、慌てて千太郎の手を引いて歩き出す。


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・千太郎 「どうして通りに看板が置いてねぇんだろ。叩くと音が出て面白えのにさ。」
・松太夫 「そんなことして遊んだらあかんわいな。大坂は通りの邪魔にならんように、看板は皆庇の上に上げてあるのじゃ。見てごらん、面白い看板があるじゃろう。」

 松太夫と千太郎、上を見上げる。  八つの鐘が鳴る。二人、歩き出す。

・千太郎 「おいらァ、腹アへったよー。」
・松太夫 「おお、そうじゃろそうじゃろ、もう八つを打ってじゃ。」
・千太郎 「八つじゃねえよ。六つだよ。」

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・松太夫 「(笑って)まだ暮れ六つには間があるわいな。」
・千太郎 「それでも、鐘は九度しか打ってねえよ。八つなら十一度打ちまアす。」
・松太夫 「ほほう、そうじゃとも。江戸の鐘は捨て鐘三つの後時を打つ、それじゃさかい、ぼんの言う通り八つの鐘は十一度打ちじゃ。じゃがな、大坂は捨て鐘一つじゃさかい八つの鐘は九度打つのじゃ。これから良う覚えておくのじゃなあ。それにしても良う知ってじゃ。ぼんは利発じゃ。」
・千太郎 「かかさまに習うた。」
・松太夫 「これはまたしもうた。ささ、早いのいの。」

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〇同・町会所・表  松太夫、千太郎、来かかるが、千太郎、ふと足を止め、うなだれる。
・松太夫 「どないした?」
・千太郎 「お家(うち)へ帰りてえ。」
・松太夫 「そうかそうか、じきにお家じゃ。そこの角曲がったとこじゃさかい、そうめんと刺し鯖でも食べようなあ。早よおいで。」

 松太夫、千太郎の手を引いて、会所横の路地に入る。


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・松太夫 「町の会所じゃ。いつもは町役が詰めておいでじゃ。御奉行所のお役人もお出でなさる。時には、江戸からお越しのお役人もござるそうじゃ。」
・千太郎 「江戸ー」

 千太郎、江戸と聞いて中を覗くが、金屏風の前には造り物の金太郎が置かれているばかり。

・千太郎 「誰も居ないよ。」

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・松太夫 「見てみい。金太郎のお人形じゃ。足柄山で熊を相手に相撲をとってじゃわい。」
・千太郎 「知ってらぁ。元服して坂田の金時。源頼光の四天王だい。」
・松太夫 「ほう、えらいのう。よう知ってじゃ。」
・千太郎 「かかさまが絵草紙読んでくれた……。」
・松太夫 「これは又々しもうたじゃ。さ、さ、行こう、行こう。」

と、千太郎の手を引いて行く。


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〇同・長屋の路地・入口  松太夫、千太郎を連れてくる。  路地の奥、松太夫の家の前辺りに、おしげ、おたか、子供達など、長屋の人々が、笑顔で出迎えている。
・松太夫 「ほれ、あそこが祖父の家じゃ。みなさんが、お前を迎えてくれておいでじゃ。ありがたいことじゃ。」

 千太郎、じっと立ち止まって動かない。

・松太夫 夫「どないした? みなさん、待っておいでじゃが。」
・千太郎 「ここ、おれの家(うち)じゃねえや。」

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・松太夫 「ぼん、そない聞きわけのない事言うたらあかん。お前のおとっさん、おかあさんはなくなりはったんじゃ。もうこの世にいてじゃないのやさかいに、これからは祖父の家がお前のお家じゃ。どこかお前の奉公口が決まるまで、祖父と二人で暮らすのじゃ。ええな、さー、早よおいで。」
・千太郎 「おいらア、いやだア。」

 松太夫、千太郎の手を引くが、千太郎、足をつっぱって動かない。

・松太夫 「どうしてじゃ。」
・千太郎 「江戸へ帰る。」

 松太夫、困って千太郎の前にかがみ込み。

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−と、突然。大通りから鋭い女の声がする。
お美和「千太郎…!」

驚いて声の方を見る千太郎、松太夫。 会所の角に着けられた二挺の駕籠から、若い男女が転ぶように降り立つ。千太郎の父、五兵衛と母のお美和である。
・千太郎 「かかさま! ととさま!」

 と、叫んで駆け出す。お美和も走り寄り千太郎をしっかり抱きしめる。  松太夫、茫然とその様子を見つめている。  五兵衛、松太夫に笑顔で近付く、  松太夫、顔色を変え、目をつぶり両手を合わせてお経を唱える。

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・松太夫 「迷わず成仏…、迷わず成仏…。」
五兵衛「これはおやじさま。五兵衛でごぜえます。幽霊ではごぜえません。この通り足がごぜえやす。こうしてお美和と、命を取りとめて生きて戻ってめえりました。」

 松太夫、そっと目を開ける。
五兵衛「江戸に帰って話を聞き、すぐに千太郎の後を追ってめえりました。おやじさまには、さぞやご心配をおかけしたことでしょう。お詫びの言葉もごぜえません。長崎で商いの荷と共に乗り込んだ船が、大風に流されて断り文ものぼしやれず、店の者たちにも可哀想なことを致しました。けれど、もう御心配はおかけいたしません。こうして大坂へ上ってきましたからには、お美和と二人、日本第一の繁盛の地この大坂で店を持ち、商いの奥義をみっちり修業致すつもりでございます。これからはおやじさまにも決して御不自由のないように孝行させて頂きます。」

 と、お美和と二人、深々と頭を下げる。

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 松太夫、何度も頷いて聞いているが、ふと千太郎に、
・松太夫 「ぼん、ととさまも、かかさまも、あない言うてじゃが、お前はやっぱり江戸へ帰るんか?」
・千太郎 「おいら、今から、浪速っ子でえ。」


 松太夫、五兵衛、お美和、吹き出す。

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いつの間にか集まって来た長屋の一同が、「お目出とうございます。」「よろしおましたなあ。お師匠さん。」などと、口々に祝福する。   にこやかに礼を言う松太夫、五兵衛、お美和。
長屋の差配「さあ、皆さん。お目出たいところで、お祭りにくりだそうじゃおまへんか。」
・松太夫 「おお、それがええ。長屋中くり出してパアーッと賑やかに船渡御見に行きましょう。」

   「はあ、目出たや、目出たや。」  一同、歓声を上げ、手を打って囃しながら大通りに向かい船渡御見物に行く。
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