町家物語
シアター上映があるんだよ!
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9階展示室「なにわ町家の歳時記」にある風呂屋では、江戸時代の暮らしがよくわかるシアター(ガイダンス映画)上映を行っています。
第1回10時10分開始、以降45分間隔で上映します。
5月〜8月末までの「夏祭りの飾り」のしつらいの時には「夏祭り」の内容を上映します。
9月〜4月末までの「商家の賑わい」のしつらいの時には、「薮入り」の内容を上映します。
シアターのシナリオをご紹介いたします。
9月〜4月中旬
薮入り
4月中旬〜8月末
夏祭り
『風呂屋シアター』薮入り
実施予定
おちょう
藪入りの日にいなくなった子どもを捜している。夢見がちで、少し怖がり。
おきん
いなくなった子どもを一緒に捜している。気が強く、せっかち。
おもた
いなくなった子どもを一緒に捜している。のんびり屋だが、よく気がつく。
薮入りとは…昔の丁稚奉公ではお正月とお盆の16日前後に奉公人が主家から休暇をもらい、実家に帰ることを唯一の楽しみにしていた。
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「町・通り」
十四、五の娘、おきんとおちょうが、「えらいことじゃ、えらいことじゃ。」と、息せききって走ってくる。
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風呂屋の閉められた表戸の前に、同じ年頃の娘、おもたがぼんやり腰を下ろしている。 おきん、おちょう、おもたの前に駆け寄り、
おきん
「(息を切らせ)おもたはん!」
おちょう
「探したわいな。」
おもた
「どないしたんじゃ。」
おきん
「どないもこないも、お前こそこんなところにおいど据えて何してるのじゃ。」
おもた
「お風呂に来たら、今日はお休みじゃさかい。」
おちょう
「それじゃとて、こんなところで座っていたのかいな。」
おきん
「あほらしい、今日は藪入り、お休みに決まっているじゃろうが。」
おちょう
「それよりえらい事じゃわいな。」
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おきん
「薬屋の肥後屋さんで子どもしが一人消えてしもたのじゃ。」
おもた
「消えてしもた…?」
おきん
「さいな、今朝方六つ頃じゃったそうな。」
肥後屋・表 (早朝)
丁稚たちが、こざっぱりした着物で、お店からの心ばかりのみやげ片手に、女中頭のお糸に祝福されて、次々と親元に出発していく。
物陰から、一人その様子を見ていた前垂れ姿の丁稚、堪らなくなって啜り上げる。 お糸が慰めて、鼻を拭いてやりお店に連れてはいる。
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おきん
「お店の人達は皆薮入りで親元へいにはった。そやけどその庄どん言う子一人だけはお国が遠いさかい、いぬことがかなわなんだ。」
おもた
「一人だけ…」
おきん
「さいな。」
おもた
「可哀想に、辛かったじゃろなあ。」
おちょう
「肥後屋のお千代さんが、お芝居のお供に言うてくれはったんじゃけど。」
おきん
「それからこいさんがちよっとの間、目エ離したうちにふっと姿が見えんよう になってしもうたそうじゃ。ひょっとすると神隠し、それとも大川へドブーン。」
おちょう
「いやあ、怖わ。やめて。」
おもた
「まさか。」
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おきん
「お店では心配して、手尽くして捜してなはるけど、まだ行方がわからんそうじゃ。」
おちょう
「それじゃさかい。お千代さんが、おもたはんにぜひとも捜してほしい言うて頼んではるのじゃわいな。」
おもた
「わしみたいなもんになんで。」
おきん
「おまえ、どんくさいけど、頭は利口発明じゃさかい。」
おちょう
「そんな、はっきりいうたらあかんわ。」
町会所前
おきん、おちょう、おもたが早足でやって来て、中を覗く。
玄関先に水を打っていた町内の下役が、声をかける。
下 役
「どないした、ここは子どもの来る所じゃないわい。」
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おちょう
「あの、お千代はんとこの…」
おきん
「肥後屋さんの子どもしが…」
下 役
「ふんふん、それじゃったら今相談しておいでじゃ。そのうち見つかるじゃろが、そんなもんほっといたかて、腹減ったら帰ってきよる。ほれほれ、のかんと水かかるぞえ。」
と、三人の前に水を打つ。 慌てて跳び退く三人。
火の見櫓下
おきん、おちょう、憤慨して歩いている。おもた、遅れてついて来る。
おきん
「いかい頼りないおっさんじゃ。」
おちょう
「ほんに役立たずじゃ、大川でおぼれていたらどないするつもりじゃあ。」
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おきん、ふと足を止め、櫓を見上げる。
おきん
「おもたはん。」
おもた
「…?」
おきん
「これに登ったら、町中見えるじゃろ。」
おもた
「うん。」
おきん
「庄どんの行方かてわかるかも知れへん。」
おちょう
「さいな、登ろ登ろ。」
おもた
「あない書いてあるぞえ。」
と、梯子を指さす。−『町役人の外 登るべからず。』と大書きされた板が、打ちつけられている。
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おちょう
「まちやくにんのほか のぼるべからず。」
おきん
「かまへん、そうっと分からんように登ったらええ。」
おちょう
「うん、今のうちじゃ、早よ登ろ。」
二人、梯子に取りつく。
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下 役
「こらっ!何してんのじゃ!そこに書いてあるのが分からんのか!」
三 人
「…」
一言もなく、うつむいているおきん達。
下 役
「お前ら、読まれへんのか。」
おきん、おちょう、急いで頷き、おもたの頭にも手を添えて頷かす。
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下 役
「それじゃったらしょうがないけどなあ。ここに『まちやくにんの
そと
、のぼるべからず。』と書いてあんのじゃ。」
おきん
「
そと
とちごうて、
ほか
じゃ。」
下 役
「なに?」
おちょう
「外と書いて、
ほか
と読みますねん。」
下 役
「お前ら、読めるじゃないかい!」
下役、手にした柄杓を振り上げる。
おきん
「かんにん。」
一目散に、逃げ出す三人。
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おきん
「おもたはん、まいちど町内探すてて、どこ探すのじゃ。」
おもた、建具屋の前で足を止める。
おきん
「建具屋さん。こんなとこに、庄どんがいるのかいな。」
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おもた
「その子、竈(へっつい)さんの側でうたた寝するのが、好きじゃったんじゃろう。」
おちょう
「うん、お千代はんは、そう言うてじゃ。」
おもた
「建具屋さんは、竈さんも売ってじゃ。この中にようけ置いてじゃわいな。」
おきん
「そうか。」
おちょう
「おもたはん、やっぱりかしこじゃ。」
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おもた、閉められた戸に、そっと耳を当てる。
おきん
「なにするのじゃ。」
おちょう
「立ち聞きすると三尺地の下の虫が死ぬ言うぞえ。やめとき。」
おもた
「シーッ。」
と、戸の隙間から中を覗く。
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おきん、おちょうもつられて中を覗いたその時、ガラリッと戸が開いて、頑固そうな四十がらみの男が顔を出す。 建具屋の主人、岩二郎だ。
おきん
「わッ」
おちょう
「ひえッ」
岩二郎
「なんじゃ、おまえら。」
おもた
「わしら、友達探してますのじゃわいな。」
岩二郎
「ここにはそんな者おらんわい。ごちゃごちゃしてんと早よいね。シッ、シ ッ。」
と、手荒く戸を閉める。
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おもた達、仕方なく歩き出して、
おきん
「なんじゃい、人のこと、シッ、シッじゃて。いかい人でなしじゃ。」
おちょう
「さいな。それじゃさかいあの家には、子どもしも女子しも居つかぬそうじゃ。」
おきん
「べかこじゃ。」
おきん、建具屋に向かってベッカンコをする。
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三十過ぎの美しいおかみさんが、十六、七の年頃の娘と二十七、八の番頭を供につれて出かけていく。
おかみ
「火の元、戸締まり、あんじょう見ましたか?」
番頭
「へえ、確かに。」
おかみ
「お鶴、ほな行きましょか。」
お鶴
「へえ。」
しゃなりしゃなりと、歩き出す三人。
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人影のまばらな通りで、その姿を見送っているおきん達。
おちょう
「おきんはん。見た? すいじゃなあ。」
おきん
「見た見た。お鶴はん、銀の両刺に鼈甲の前刺してはった。わしもあんなんほしいわあ。」
おちょう
「あれは大方お店の品物じゃ。わしは簪やのうて、番頭さんの事言うてるのじゃ。水も滴るてあのお人のことじゃ。」
おきん
「あかん、あかん、おちょうはんがなんぼあの人のこと想うてもあかん。もう話がお鶴さんと決まってあるんじゃわいな。」
おちょう
「そやかて…」
おきん
「やめとき。あれ、おもたはんはどこじゃ。」
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おきん、おちょう、あたりを見回す。 おもた、唐物屋を窺っている。 おきん、おちょう、急いでおもたの傍に行く。
唐物屋前
店は開けられているが、店内に人影もなく静まり返っている。おもた、柱の陰から店の様子を窺っている。おきんとおちょうが、走り込んで、
おきん
「人形屋さんにいると思うたに、早や唐物屋(からものや)さんかいな。」
おもた
「シーッ。人形屋さんにも、本屋さんにも子どもしのいる様子はないわいな。本屋さんは、京から兄ぼんさんが帰っておいでじゃ。家中そろうてぼた餅食べてはりました。」
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おきん
「やっぱり怪しいのはここじゃろか。」
おちょう
「お店は開いているのにどうして誰もいててじゃないのじゃろう。」
おきん
「唐物・天竺・南蛮物かておいてある。」
おもた
「そおろと入ってみよう。」
おちょう
「あかん、やめとき。」
おきん
「そんなら、おまえ、ここで一人で待ってるか。」
おちょう
「あっ あー いやじゃ。」
おきん
「ほな一緒じゃ。」
おちょう
「うん」
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おもたを先頭におきん、おちょう、怖ごわ店の中に入る。
中国製の大甕。南蛮渡来のギャマンの壷、阿蘭陀渡りの覗き眼鏡など、珍宝奇物が所狭しと置かれている。 おもた達、足音を忍ばせて来る。 と、突然店の隅でガタンと音がする。おきん達、驚いて跳上がる。
おきん
「わァ、なんじゃ。」
おもた
「シーッ。猫じゃ猫じゃ。」
隅からでて来た猫が、あくびをする。
おちょう
「ああ怖わ、早よ去の。」
と、踵を返して入口に向かう、おきんもその後に続く。
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おもた
「待っておくれな。ほら、これがエレキテル言うもんじゃろう。」
おきん
「エレキテル…?」
と、足を止め、エレキテルに目を向ける。
おもた
「万病に効くそうじゃ。」
おきん
「へえ。この紐は何じゃろう?」
と、機械から伸びているコードを手に取る。
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おちょう、機械のハンドルを持ち、
おちょう
「これ、どないするんじゃろ。よう回る。」
と、回し始める。
おちょう、次第に早く回す。と、突然、おきんの頭にピカッピカッと稲妻が走り、髪の毛が逆立ち、両手が震え出す。
おきん
「ひゃー。」
おちょう
「あーっ。」
と、ハンドルから手を放す。
おきん、バッタリ倒れる。
おもた、おきんを助け起して、逃げ出す。後に続くおちょう。
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おきん達、必死で逃げてきて、合薬屋の角で、ハアハア荒い息をつく。
おきん
「ああ、えらい目におうた。もう子どもしさがすのはやめじゃわいな。」
おちょう
「わしもやめじゃ。なあ、おもたはん、そうしよう。」
おもた
「見てみ。呉服屋さんとこのぼんが、退屈そうに独りですわってじゃ。あそこには子どもしは来ておらんようじゃ。」
おきん
「おもたはん、まだ捜すのかいな。」
おちょう
「おきんはん、みて。あそこへいく子、その子どもしじゃないかいな。」
と、通りの中ほどを行く八歳位の男の子の後ろ姿を指す。
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おきん
「えッ、どれ。そうじゃ、間違いない。」
と、走り出す。おちょう、おもたも後を追う。 おきん、子どもを捕まえて、顔をのぞく、
子ども
「わアッ。」
おきん
「堪忍、人違いじゃ。」
子ども
「な、何じゃ。あほっ、すかたん。」
と、走り去る。
茫然と見送るおきん達。
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長屋の木戸口
おきん達、力なく帰ってくる。
おもた、ふと足を止め、鼻をひくつかせる。
おもた
「どこかで小豆炊いてじゃ。何やら妙じゃ。ここの長屋に藪入りで帰ってくる子どもしはおらんはず。そうじゃ、見つけた!」
と、突然走り出す。慌てて後を追うおきん、おちょう。
路地に走り込んだ三人の前に、長屋の主婦、おたかが立ちはだかる。
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おたか
「ちょっと、静かにしなんせ。そこのおしげさんの家で、丁稚さんが一人よう寝ててじゃ。騒いで起したら可哀想じゃろ。」
おもた
「おしげさんの家の兄さんがお帰りかい。」
おたか
「違う違う、あの兄さんは、お江戸の修業が一人前になるまでは、帰って来んと天神さんに願かけてじゃ。八年前から一度もお帰りがないわいな。まぁそれじゃさかい、おしげさんも寂しかったんじゃろう。今朝方、木戸口で泣いている丁稚さんを見つけて、自分の子オのように思われる言うて、家に連れて帰ってきなさったんじゃ。」
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おもた
「ほんなら、どこの子ォじゃ。」
おたか
「それが分らんのじゃ。すぐに泣き疲れてねてしもうたじゃさかい、何処の誰やら聞かずじまいじゃそうな。」
おもた
「その子じゃ。」
おきん
「さいな。」
おちょう
「庄どんじゃ。」
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おしげの家
土間に続く三畳で、ぐっすり眠っている庄どん。
その姿を見つめるおしげ、おたか、おもた、おきん、おちょう。 おきん、おちょう、頷いて、
おきん
「間違いない。庄どんじゃ。」
おきん
「よかった。」
おちょう
「よかった。」
おもた
「よかった。」
笑顔で見合わせる三人。 庄どん、安らかな寝息をたてている。 おしげ、その寝顔に見入りながら、団扇で風を送る。
「藪入りの 寝るや一人の親のそば。」 炭 太祇
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